夢列車


「ここは夢列車。貴方の見たい夢までご案内いたします」
「まじか。じゃあ彼女が出来て、リア充してる夢を見たいんだが」
「…………」
「おい、なんだよ黙り込んで」
「ここは夢列車。貴方の見たい夢までご案内いたします」
「RPGの村人Aみたいな発言すんなよ!」
「夢のまた夢はサポート外ですので……」
「彼女は夢ですらないの!?
「他に見たい夢はございますか」
「ほんとに見せてくれないのかよ……じゃあ、大金持ちになる夢とか」
「……ここは夢列車。貴方の」
「夢くらい見させてくれよ! 夢がないなぁ!!
「涙を拭いてください。ここは夢列車。貴方の」
「わかったよもう。ある程度現実的な夢じゃないとダメなんだな。じゃああれだ。彼女とかじゃなく、普通に、その、で、デートとかならどうだ」
「私とでございますか」
「なんでお前となんだよ」
「他に選択肢が思いつかなかったもので……」
「お前男じゃん……やだよ……」
「……女であれば差し支えないと?」
「ん?」
「ですから、女であれば誰でも良いのですか?」
「誰でもっていうのはちょっと……その、かわいい娘がいいな」
「承知いたしました。では行きましょうか」
「え、まじで?」
「ここは夢列車。貴方の見たい夢ならば、どんなものでも見せましょう」
「さっきサポート外とか言ってたクセに……って、なんだよその手は」
「ご案内するのですから、エスコートするのは当然でしょう。ああ、いえ、この場合はエスコートしていただいた方がよいのでしょうか」
「おい、待てお前」
「デートくらいならお安い御用というもの。さあ行きましょう」
「嫌な予感しかしないんだが」
「まずは無難に映画館でしょうか。出会ったばかりで緊張されているでしょうし。ああご安心を。女性的な仕草なら、心得ておりますので」
「やっぱりお前なんじゃん……」
「それとも他に行きたいところがごさいましたら、そちらに変更いたしますが」
「配慮をする前に俺の話を聞いてくれ。俺は男とデートしたくはないと」
「私の外見についてはここまで描写がありませんので、私の性別が本当に男なのか、分かる者は貴方ぐらいしかおりませんよ」
「その俺が男だって言ってんだけど?」
「――しゃららん、という音とともに、車掌を名乗る精悍せいかんな顔つきをした美青年は光に包まれ」
「ナレーション風のセリフで事実を曲げようとするな」
「精悍な顔つきの美青年には突っ込まないのですね」
「そんなとこだけ拾うな」
「それにしても我儘わがままですね。折角貴方の切望する夢を叶えて差し上げようというのに」
「一番切望してた夢なら、真っ先にサポート外って言われたけどな」
「しかし、私は寛容なので許して差し上げます」
「ほんと話聞かねぇよなあ!」
「さて、特急『夢行き』、間もなく発車となります。閉まりますドアにご注意下さい。なお、本列車は途中下車出来ませんので、ご利用のお客様は現実世界でのお忘れ物にご注意下さい」
「……なぁ」
「途中、ライフイベント、転換期を経由し、終点の『夢の走馬灯』に停車いたします」
「…………」
「ご心配の際は、車掌までお申し付け下さい」
「…………やっぱり、そうなんだな」
「……ええ。貴方の叶えたかった夢まで、あるいは叶わなかった夢まで。ほんのひと時ではありますが、ご案内いたします。ただ、彼女と充実した日々を送ることや、大金によっていつまでも裕福に暮らすことは出来ませんが……まあ、女装くらいなら三秒で出来ますので」
「女装するのか」
「どうです?」
「…………悪くはない」
「かわいいでしょう」
「自分で言うな」
「ただ三秒しかもたないので、ここぞという場面でご利用下さい」
「ウルトラマンでももうちょっと保つぞ?」
「――それでは。特急『夢行き』発車いたします。終点到着後は、引き続きご乗車いただけませんのでご注意下さい。
 どなた様もご達者で、いってらっしゃいませ」


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